防災士の本来の役割に立ち返るために

これまで、防災士の活動は多岐にわたり、地域の防災教育やイベント企画、被災地支援、避難所運営訓練、救助・応急手当の指導など、幅広い分野に関わってきました。行政・地域・企業・学校など、協働先も多種多様です。

一見すると“なんでもできるマルチな存在”にも見えますが、裏を返せば「専門性があいまいな、なんでも屋」となってしまっている現状も否めません。

もちろん、個々には高い専門性を持つ防災士もいます。しかし、組織としてみたときに、活動の軸や方針が見えづらく、ちぐはぐな印象を世間に与えてしまっているのが現実です。

加えて、防災士は民間資格であり、法的な権限はありません。そのため、過度な役割を担うことで、現場でのトラブルを招くケースもありました。

かつては、防災に関する専門人材が不足していたため、防災士の“多機能性”は重宝されていました。しかし今の日本には、多くの災害を経験する中で、専門的な知見と技術を持つ人材が増えています。

私たちは、もはや「なんでも屋」としての防災士が求められる時代ではないと考えています。

だからこそ私たちは、防災士本来の原点に立ち返り、「民間人としての視点を活かした地域の防災教育と啓発」にこそ役割を見出します。そして、それに集中するために、あえて組織として行わないことを、ここに明示します。

これは過去の活動や個々の防災士の働きを否定するものではなく、あくまで組織としての方針です。以下の活動については、必要であれば適切な他団体・専門家へバトンを渡すことが、より効果的だと私たちは考えます。


■ 被災地での直接的な現地ボランティア活動

→ 社会福祉協議会や災害ボランティアセンターなど、支援体制が整った専門団体を通じて行うことが、被災地にとって最も有効です。


■ 行政の下請けとなる防災事業

→ 防災士は民間の立場から、自由で率直な意見を発信できる存在です。行政の委託を受けることで発言に制約が生じることを避け、対等な関係での協働を大切にします。


■ 指定避難所の運営やその指導

→ 防災士には法的な指導権限がありません。方針の不一致による誤解や混乱を避けるため、避難所の運営や指導は、経験豊富な行政職員や自治体が担うべきだと考えています。


■ 救援・救助活動、応急手当やAED講習の実施

→ 消防や医療従事者など、専門の訓練と資格を持つ人々による活動が適切です。私たちはこれらの活動を尊重し、必要に応じて連携・橋渡しの役割を果たします。


最後に

「やらないこと」を明確にすることは、私たちが本当にやるべきことを浮かび上がらせるための宣言です。

私たち日本防災士ネットワークは、防災士が地域社会の“知恵と気づき”を育む存在として、ぶれずに歩み続けます。