防災教育の名を借りた危険行為 ロープワーク講習

消防ですら死亡事故が起きるロープワークを、なぜ素人が教えるのか
近年、一部の防災士や防災関連団体により、
ロープワーク講習が「防災教育」として実施されている現状があります。
中には小学生などの子どもを対象に、
「遊びの延長」「体験学習」として行われているケースも見受けられます。
しかし私は、この状況に強い危機感を覚えています。
なぜなら――
そのロープワーク、本当に安全だと言えるのでしょうか。
消防のプロでも死亡事故が起きている
2026年1月25日、京都新聞は次のような事故の続報を報じました。
大津市消防局の消防隊員が救助訓練中に転落し死亡。
調査の結果、本来は別々に固定すべき安全確保用ロープが一本化されており、安全管理体制に重大な不備があった。
訓練中の事故でした。
実災害ではありません。
しかも亡くなったのは、
・消防職員
・専門教育を受けたプロ
・組織的な訓練体制の中
での事故です。

総務省消防庁の統計では、
訓練中の事故で命を落とした消防職員は2007年以降で26人。
そのうち21人が墜落事故とされています。
これは偶然でも、特殊な例でもありません。
ロープを扱うという行為が、
それほどまでに危険と隣り合わせであることを示しています。
では、なぜ防災士が教えているのか
ここで冷静に考えなければなりません。
防災士は、
・国家資格ではありません
・業務独占資格でもありません
・救助活動を行う法的権限もありません
あくまで
防災に関する知識を学んだ民間資格です。
それにもかかわらず、
・人体を想定したロープワーク
・人を支える結索
・「助ける」動作を前提とした実技
こうした内容が、教育の名のもとで行われています。
ここに、大きな矛盾があります。
ロープワークは「知識」ではなく「命を預かる技術」
ロープワークは単なる結び方ではありません。
・荷重
・衝撃
・支点強度
・二重確保
・フェイルセーフ
これらをすべて理解し、
かつ現場で判断できなければ成立しない行為です。
実際、建設業や産業現場では、
・玉掛け
・高所作業
・墜落制止用器具
これらはすべて資格や特別教育が義務化されています。
なぜか。
失敗すれば、即、死亡事故になるからです。
同じ構造を持つロープワークを、
「教育だから」「体験だから」として扱うことは、
明らかに危険認識が欠けています。
特に問題なのは「子どもへの指導」
さらに深刻なのが、
小学生などの子どもに対するロープワーク講習です。
多くの場合、
・危険性の説明はされない
・「楽しく学ぼう」という雰囲気
・遊びの延長として実施
しかし子どもは、
「今日は体験だから危険じゃない」
という切り分けができません。
子どもが学ぶのは、技術ではなく成功体験です。
「できた」
「褒められた」
「楽しかった」
その記憶は、家庭や遊びの中で再現行動につながります。
ロープは、静かに人の命を奪う道具です。
事故は現場ではなく、
家や公園で起きる可能性の方が高い。
そこまで想像した教育が、本当に行われているのでしょうか。
防災教育の目的を履き違えてはいけない
防災教育の目的は、
「できる人を増やすこと」ではありません。
「危険な行為に近づかない判断力を育てること」です。
・自分で助けに行かない
・無理をしない
・プロに任せる
・命を守る行動を選ぶ
これを教えるのが防災教育です。
消防ですら命を落とす作業を、
市民や子どもに「やらせる」ことは、
防災の本質から完全に逸脱しています。
事故が起きてからでは遅い
もし、万が一。
防災講習で学んだロープワークを子どもが真似し、
事故が起きたとしたら――
そのとき問われるのは、必ずこうです。
「なぜ危険性を説明しなかったのか」
「なぜ専門外の行為を教えたのか」
善意や熱意は、免罪符にはなりません。
防災は、人の命を守る活動です。
だからこそ、最も慎重でなければならない分野です。
最後に
消防というプロ集団ですら、
ロープを扱う訓練で命を落としています。
その現実を知った上で、
なお「遊び感覚」でロープワークを教えるのであれば、
それは防災教育ではありません。
危険行為の正当化です。
事故が起きてからでは遅い。
誰かが亡くなってからでは、遅すぎます。
今こそ、防災教育の中身と限界を、
真剣に見直す時ではないでしょうか。
