最終更新日:2026年9月16日

きっかけは、熊本地震の避難所でした

令和8年の熊本地震では、今も多くの方が避難所での生活を続けておられます。報道や現地の声にふれるなかで、私はあらためて一つの疑問を持ちました。

「避難所に最初に着くのは、いったい誰なのだろう?」

防災士や自治体の職員が、いつも真っ先に駆けつけられるとは限りません。実際に最初に扉を開けるのは、たまたま近くにいた住民の方かもしれない。その人が、何をどうすればいいか分からずに立ちすくんでしまったら、避難所の立ち上げはそこで止まってしまいます。

避難所運営ゲーム「HUG」の、優れた点と限界

避難所運営の訓練として、全国的に「HUG(ハグ/避難所運営ゲーム)」が広く使われています。2007年に静岡県で生まれ、次々に示される状況に対して参加者が議論しながら判断を下す、とても優れた研修です。「正解のない状況で考える力」を養う点で、HUGに代わるものはありません。

ただ、HUGには構造上、どうしても届きにくい部分があります。

ひとつは、研修を受けた人がその場にいないと機能しにくいこと。HUGは平常時の訓練であって、災害当日に誰が最初に来るかは選べません。

もうひとつは、「考える」と「実際に動く」の間に距離があること。頭で分かっていても、混乱の現場で「では今、誰が何をするか」を割り振るには、もう一段の橋渡しが要ります。

そして、準備のハードル。HUGを一度開くには、進行役・会場・参加者・数時間の時間が必要で、地域の全員が受けるのは現実的ではありません。

これはHUGが劣っているという話ではありません。HUGが最初から狙っていなかった「被災直後の初動」という領域が、ぽっかり空いている、ということです。

そこで考えたのが「TAG方式」です

TAG方式(Task Assignment Game)は、HUGの代わりではありません。HUGが養う「考える力」を、実際の現場で「動く」ところまでつなぐための、実践のための道具です。

仕組みは、驚くほどシンプルです。

避難所には、役割を書いたカードの束を置いておきます。受付・案内・スペースの区切り・トイレの確認・水や物資の管理――ひとつの役割につき一枚のカードです。

最初に避難所に着いた人が、この束を全部持ちます。一人では、到底できません。 だからこそ、人が来るたびに「これ、できますか?」とカードを一枚ずつ手渡していきます。引き受けてくれた人が、そのカードの責任者です。

できない・やりたくないと言われたら、無理強いせず、自分が持ったまま別の人に渡します。カードは常に誰かが持っている状態を保ちます。その避難所で必要のない役割のカードだけを、「いらない」箱に入れます。

資格も、経験も要りません。カードが「次にやること」を教えてくれるので、訓練を受けていない人でも動けます。HUGで考え方を学んだ人がいればなお良い。いなくても、カードがあれば避難所は立ち上がります。


HUGが「考える研修」なら、TAGは「動くための備蓄品」

HUGが平常時に判断力を養う研修だとすれば、TAG方式は被災直後にその判断を形にする備蓄品です。両者は競合しません。HUGの後にTAG方式を組み込めば、「考える」から「動く」までが一本の線でつながります。

しかも、TAG方式にかかる費用は、一つの避難所あたり千数百円程度。カードを印刷し、透明の袋に入れて、ノートとペンと一緒に置いておくだけです。進行役も会場も要りません。避難所の数だけ、そのまま複製できます。

今後の展開

TAG方式は、まだ生まれたばかりの試みです。これから、次のような形で少しずつ育てていきたいと考えています。

  • 避難所ごとの規模や設備に合わせて、カードを自由に作れる仕組み(すでに試作しています)
  • 実際の避難所での試用と、使ってみた声のフィードバック
  • HUGを実践してこられた方々との連携――否定ではなく、補い合う形で

災害は待ってくれません。「その場にいる人だけで、避難所を立ち上げられる」――そんな備えを、一つでも多くの地域に広げていけたらと思っています。

ご意見やご感想、「うちの地域でも試してみたい」という声がありましたら、ぜひお寄せください。一緒に育てていきましょう。

防災士 安岡 猛