「消防がいるから防災士はいらないのでは?」

「防災士なんですよ」と話すと、「消防があるんだから、それでいいんじゃないの?」と言われることがあります。「消防」と「防災士」は「防」の字しか共通していませんが、それでも混同されがちなのは、世間的なイメージの中で両者がひとくくりにされているからだと感じます。でも実際は、消防士と防災士は「災害のどのフェーズで活動するか」がそもそも違います。今日はその違いを整理してみます。

一番の違いは「資格」か「職業」か

消防士は、市町村に採用された地方公務員です。消防学校で長期間の訓練を受け、採用試験に合格した人だけがなれる、れっきとした「職業」です。給与が支払われ、消火・救助・救急を専門技術としてフルタイムで担います。

一方、防災士は民間資格です。日本防災士機構という認定NPO法人が認証する資格で、2日間程度の研修と試験を経れば、会社員でも主婦でも学生でも取得できます。仕事ではなく、地域活動としてのボランティア的な立場です。

そしてもう一つ、地方でよく見かけるのが消防団です。消防団員は本業を別に持つ地域住民が、非常勤の特別職地方公務員として登録し、火災や災害の際に招集されて消火・警戒・避難誘導などにあたります。消防士のようなフルタイムの職業ではありませんが、実際の消火・救助活動に加わる点で、防災士とは立ち位置が異なります。

違いは「活動する災害フェーズ」

災害への対応は、大きく3つのフェーズに分けられます。

  • 予防・準備期:災害が起きる前の備え
  • 応急対応期:災害発生直後の対応
  • 復旧・復興期:その後の生活再建

消防士が主戦場にしているのは「応急対応期」です。火災や事故、災害が起きたその瞬間に出動し、最前線で消火・救助・救急にあたる「プロの実働部隊」です。ただし、消防士は基本的に指揮命令がないと動けない組織です。極論すれば、災害が実際に起きてからでないと動けません。予防・準備期にどれだけ地域の危険箇所や事情を知っていても、指示なく個人の判断で動くことはできない立場です。ですので、大規模災害が起きると、消防や警察などの公的な救助はどうしても手が足りず、すぐには駆けつけられない地域も出てきます。いわゆる「発災直後の72時間」は、住民同士の助け合い(共助)が生死を分けるとされる時間帯です。

消防団は、その72時間の空白を埋める重要な存在です。消防士のように常駐しているわけではありませんが、招集がかかれば消火や警戒、避難誘導といった応急対応の現場に、地域住民として加わります。

防災士が主戦場にしているのは、その手前の「予防・準備期」です。地域の避難訓練を企画したり、避難行動タイムラインを作ったり、自治会やご近所同士の「共助」の意識を平時から高めたりする、いわば地域の防災コーディネーター役です。組織の指揮命令を待つ必要がなく、危険を感じれば自らの判断で動けるのが、消防士との決定的な違いです。実際の消火・救助活動には加わりませんが、発災直後、消防や消防団が駆けつけるまでの間、住民同士がどう動くかをあらかじめ考えておく役割を担います。

つまり、消防士がいるから防災士がいらない、のではなく、消防士・消防団・防災士はそれぞれ違うフェーズ・違う立ち位置で地域の安全を支えている、というのが正確なところです。

まとめると

消防士消防団防災士
立場地方公務員(常勤)非常勤特別職地方公務員民間資格
なり方採用試験+消防学校地域での入団研修+試験(2日程度)
主な活動消火・救助・救急招集時の消火・警戒・避難誘導地域の防災啓発・共助づくり
動ける条件指揮命令が必要招集がかかってから自らの判断で動ける
活動する災害フェーズ応急対応期(発災直後)応急対応期(招集時)予防・準備期が中心
待遇給与あり(職業)少額の報酬あり(本業は別)基本無償(ボランティア)